予告していましたとおり、209系0代のディテールに迫ってみたいと思います。
209系は、試作形式である901系の結果を反映した次世代の通勤形車両として1993年に登場しました。
209系が「重量半分・コスト半分・寿命半分」というコンセプトで開発されたということはご存じの方も多いはず。このうち「コスト半分」を達成するため、主要部の寸法や仕様を除き各製造メーカーの自由設計とすることでコスト減を狙ったことが、今回ご紹介する製造メーカーごとの差異の発生につながっています。また、0代だけでも10連78編成、6連2編成の合計792両が製造されたため、製造年次*1による差も多く見ることができます。
なお、209系では主に東急車輌(以下:東急)*2・JR東日本 新津車両製作所(以下:新津)*3・川崎重工(以下:川重)の3ヶ所が製造を担当しました。このうち新津については、JR東日本の車両製造部門として東急からの技術移転により誕生した経緯から、東急と同様の工法が多く採られています。そんなことも頭の片隅に入れつつご覧いただくと、色々分かりやすいかもしれません。
段々と数を減らしつつある本形式ですが、見て・乗って楽しむのにまだ遅くはありません。ぜひ観察・研究の参考にご活用ください。
また本稿を立ち上げようとしたきっかけはPLUMの16番209系0代プラキットなので、それらや1/150のディテールアップにもご活用いただけますと幸いです。
今回は主に浦和電車区に所属していた0代について、0代並びに0代から改造された2000・2100代の資料をメインに考察していきますが、他線区や他番代、また本形式をベースに製造された70-000形にも同様の特徴がみられますので、重ねてご参考いただければと思います。
なお、本稿には実車に忠実な模型を造ることを強制する意図はございません。あくまで多少の参考にしていただければ、という思いです。雰囲気だけでも楽しめるのが模型の良いところです。中には模型では再現しきれないであろう微妙な差異についても言及しています。
ただその上で、恐らく新津製をプロトタイプとしているであろうPLUM製品から、実車の形態に近い川重製の車両を再現するのは相当に難しいかな…というのが率直な感想です。。。
ひとまずは色々と気にせず気軽にご笑覧いただければと思います。
なお本稿には独自研究を多分に含みますので、内容が不正確な場合があります。それにより生じた損害などに対する補償は、当方では致しかねますのでご了承ください。
ってな訳で、今回は「前面」について探究します。
早速ですが、東急/新津製と川重製を並べてご覧いただいております。どうでしょう、交互に見ていると何となく違和感を感じていただけるのではないでしょうか。
それではメーカによる差異、また経年による差異について、いくつか項目を分けてご紹介します。
- ①前面窓ガラス押さえの違い
- ②FRP形状の違い
- ③FRP側面黒帯長さの違い
- ④前面手すり支持方法の違い
- ⑤ライトユニットの違い
- ⑥前面ステップ滑り止めの形状違い
- ⑦ホーム検知装置の有無
- ⑧運行番号表示器の違い
- ⑨種別表示器の有無
- ⑩連結器上部、切り欠き形状の違い
- ⑪デジタル無線
- ⑫連結器
- ⑬連結器を車体中心に合わせるための黒印の有無
※2022/03/30 22:56 ⑬を追記しました。
①前面窓ガラス押さえの違い
前面の差異としては最も有名かつ分かりやすい点かもしれません。前面窓ガラス支持方の違いです。ご覧の通り東急/新津製は押さえ金が太く、川重製では細いものを採用しています。ここに気がつくと、前面の印象がかなり異なって見えるようになります。
なお窓ガラス自体に寸法差があるのかは不明です。前面FRP自体の形状が異なる(後述)ので、共通の窓ガラスを異なるFRPに取り付けるため押さえ金を工夫している可能性も考えられます。
②FRP形状の違い
FRP形状の違いの中でも、まずは分かりやすい下部から。こちらもご覧いただければ一目瞭然ですが、東急/新津製は全体的に丸みを帯びた造りになっているのに対し、川重製はエッジの立ったシャープな造りになっています。また縁の幅が、前面手すり横(下記画像の赤矢印部分)で東急/新津製が約35mm、川重製は約45mmと違いがあるのを始め、各部寸法の違いが印象の差につながっています。
肩から屋根にかけての造りにも違いがあります。
東急/新津製はFRP上部が屋根方向に延長されています。川重製は製造年次により雨樋の構造が異なるため、そのつなぎ方に差があります。
なお、ランボードの切れ方の違いなどにお気づきの方もいらっしゃるかもしれませんが…そちらは「屋根」についての回でご紹介します。
③FRP側面黒帯長さの違い
FRP側面に入る黒帯の、天地方向の長さが異なります。東急/新津製は黒帯が長いため肩のエッジラインから黒帯上辺までの幅が狭く、川重製は短いため幅広です。
ちなみにこの黒帯は、901系の幕板部に施されていた黒帯に由来します(当方では画像を用意できませんので各々検索いただければと思います…)。901系では幕板部の黒帯とFRP側面の黒帯が連続する形でデザインされていましたが、209系では幕板部にもラインカラーが採用されたためFRP側の黒帯だけが残りました。なお八高線向け3000代やE501系には黒帯がありません。
④前面手すり支持方法の違い
前面手すりの支持方法が、東急/新津製はボルト止めなのに対し川重製は車体から直接生えているような形をしています。
⑤ライトユニットの違い
ガラス内側の穴に大きさ・位置・数の違いが見られます。
⑥前面ステップ滑り止めの形状違い
前面ステップに施された黒色の滑り止めの形状が異なります。
製造時(浦和時代)は東急/新津製が小型、川重製には大型のものが貼られていました。その後、時期は不明ですが(幕張転属後?)元のサイズとは異なるものに貼り替えられた車両も登場しています(”②FRP形状の違い”の画像参照)。2000/2100代を詳細に再現する際は編成ごとに観察が必要です。
⑦ホーム検知装置の有無
ここからはメーカーによる差異ではなく、経年などによる差異の紹介です。
浦和区所属の0代に対しては、ホーム外での誤開扉操作を防止することを目的としたホーム検知装置が追設されました。2004年11月~2005年9月にかけて2編成を使用した試験が実施され、その後2007年3月までに全編成へと設置されています。このホーム検知装置は超音波を照射してホームの有無を検知するもので、片側の制御車につき前面下部に2ヶ所、スカート付近の床下に2ヶ所の計4ヶ所へ設置されています。なお他線区への転用の際には撤去されました。
⑧運行番号表示器の違い
時期は不明ですが、後年になりウラ51・54~66編成とウラ2編成のクハ209(大宮方先頭車)、中原区のナハ1・32編成の運行番号表示器がLED式に交換されています。2022/03/31 23:46 追記:ナハ1編成については2009年9月頃に再びマグサイン式へと戻された模様です。
余談ではありますが、2000・2100・2200(マリJ1)の各代は改造時に4桁表示の列車番号表示器に交換されています。また各代は転属時に(2200代は中原区への転属時点で)、ナハ32は後年になり行先表示器がLED式に交換されています。
⑨種別表示器の有無
0代のうち浦和区の全編成と中原区のナハ1編成には種別表示器が設置されています。しかし方向幕に行き先と併せて種別を収録したため、種別表示器を種別表示に使用することはありませんでした。上画像の通り、浦和区の編成では種別ではなく路線名を表示していました。この仕様は70-000形にも見ることができます。
なお0代の8次車にあたるナハ32と3000代、E501系には装置の設置がありません。
⑩連結器上部、切り欠き形状の違い
浦和区に所属していた0代のうち、クハ208(大船方先頭車)*4の切り欠き端がハの字状にカットされている編成が複数存在しました。この処理は製造時ではなく現業機関にて施工されたものと思われ、車両により切り取り角度などが異なります。恐らくは連結器がFRPに触れて欠けてしまった車両に対し都度施工されたものと思われます。また2000/2100代ではより深い角度にカットする加工が、全ての先頭車に対し施工されています。
これはあくまで想像の域を超えませんが、209系は台車中心間距離が短く*5、また先頭車の車体長が運転台側に長い*6ため、運転台側で他車との連結を行うと連結器の首振り角度が過大になっていたことが原因と考えられます。浦和区では転削時に大船方へアントを連結していること、2000/2100代では日常的に先頭車同士の連結を行うことからの想像です。ちなみにE501系は床下機器の搭載面積を確保するためか、209系500代などと同様の台車中心間距離が取られています。
⑪デジタル無線
2006年6月頃より、ウラ49~52編成とナハ1・ナハ32編成に対し列車無線車上局のデジタル化工事が行われました。施工車には編成番号札横にダイバシチアンテナの設置がなされています。浦和区の編成にあっては、この工事と同時期に置き換え計画が出たため数編成への施工にとどまりました。その後、他区へ転属した編成には改めて工事が行われています。
なお、ウラ49編成のクハ209(大宮方先頭車)のみダイバシチアンテナの設置箇所が異なり、編成番号札が移設されたため異彩を放っていました。
⑫連結器
車両により、直通管を通す穴が開いている連結器を搭載しているものが存在しました。
209系に直通管は必要としませんから管そのものはありませんでしたが、穴の数が異なるため存在感を放っていました。なお、これは製造時からの差異だったのかや検査入場などで交換がなされていたのかなど詳細は不明です。
⑬連結器を車体中心に合わせるための黒印の有無
前面の車体中心を示す印がある編成とない編成が存在します(”⑩連結器上部、切り欠き形状の違い”及び”⑫連結器”の画像を参照)。
編成によっては片方の先頭車には無く、もう片方には存在したりと法則性は見出せませんでした。恐らく経年により剥がれたりしたものと思われます。
ひとまず前面編ということで、いくらかの差異をご紹介させていただきました。こんな感じで引き続き屋根や側面の差異についても記せていけたらと考えております。よろしくお付き合いください。